手すりは、階段やバルコニー、玄関、トイレ、廊下等、落下防止やバリアフリーへの配慮の観点から様々なところへ取り付いています。
特にバリアフリーの観点から、最近住宅でもつけられるようになりましたが、手すりがあることでその空間のデザインを損ねてしまう場面が見受けられます。安全面や誰にでも優しい施設のバリアフリーの考え方はもちろん大事ですが、それだけで手すりをつけるのではなく、できれば美しくつけたいものです。
今回は手すりのデザインについて、特に法令面、安全面の観点から事例を交えて解説していきたいと思います。
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手すりの法令と安全面での配慮事項
手すりの法令については、落下防止の観点から、建築基準法で設置する範囲、高さの基準が定められています。手すりを設置しなければいけない範囲については、階段と屋上広場、2階以上のバルコニーが建築基準法では規定されています。
階段については、床からの高さ1m以下の部分は除外されています。また、屋上広場、2階以上のバルコニーについては、避難経路とならない部分については除外されることも可能で、全ての部分に手すりが必要というわけではありません。建築基準法では、安全上最低限の基準が定められていますが、それだけを満足する計画では安全面への配慮が不足することが多くあります。
不特定多数が利用される公共施設や、学校等の特に子供が多く利用される施設では、手すりによじ登ったり、手すりの間から落する可能性がありますので、手すりの形状に配慮が必要となります。足がかりとなるような横桟デザインであれば、子供がよじ登り高さを確保していても落下する可能性があります。また、手すり支柱間が大きく空いたデザインであれば、手すり支柱の間から落下する可能性があります。その為、子供の利用が考えられる施設では、手すりは密な縦桟やパネル状のデザインが多くなります。
また、人が集中するような施設では、手すりの水平方向への集中的な荷重に耐えるよう構造計算を行い手すり支柱材のサイズが決定されます。球場やコンサートホール等の人が集中して通行利用される施設の手すり支柱はかなり大きくなります。
戸建て住宅では、利用者が限定され、集中して荷重のかかることが想定されていないため、細い手すりのデザインも可能となり、比較的自由にデザインすることが可能となりますが、やはり最低限の安全面への配慮は必要かと思います。このように、施設の特定に応じて、法令面、安全面への配慮から手すりの必要とされる性能やデザインが変わってきます。
法令的要素、安全面配慮から導き出される手すりのデザイン手法
手すりのデザイン手法として、施設の特性に応じて必要とされる性能面のほか、法令的要素から導き出されるものと、安全面への配慮から導き出されるものがあります。
法令的用途から導き出されるデザイン手法の一つとして、階段部分の高さ1m以内の除外規定を使ったものがあります。階段登り始めの数段に変化をつけ、手すりがないことで、演出されたスッキリしたデザインとなります。お年寄りには不親切ではありますが、利用者が限定された施設では有効なデザイン手法ではあります。
安全面への配慮から導き出されるデザイン手法の一つとして、ガラスを手すりに使うものがあります。不特定多数、特に子供の利用が考えられる施設では、手すりの間から落下しないように、手すり支柱を多く配置することや、パネル状の材質を手すりに使用することになりますが、そうするとどうしても階段の見た目が重くなりがちです。
そこで、手すり自体を透明のガラスを使用することで、落下防止に配慮した上で、軽く見せることができます。ややコストが高くなることがデメリットではありますが、安全面と意匠面を両立させたい時は有効な手段ではあります。商業施設の吹き抜け等にもよく利用されています。それは子供の落下に配慮しつつ、吹き抜けの開放感を確保するためと考えられます。
デザイン手法から導き出される手すりの材質
落下防止配慮の安全面から導き出される「面」として用いられれる手すり形状については、出来る限り面としての圧迫感を軽減させるため、先の例であったようなガラスのデザインがよく見掛けられますが、それ以外にも様々な工夫が施されたデザイン事例がありますので、紹介・解説して行きたいと思います。
角度を合わせた手すり
一般的な格子は垂直方向の線が連続しますが、この事例は階段勾配に対しての直角となる線を用いています。また、階段と手すりの取り付け部分をできる限りシンプルにのっているだけに見えるように計画し、階段部分のデザイン要素(線の方向性)が統一され、軽快に見える手法です。
ランダム配置手すり
手すり支柱に垂直線が全くないデザインで、支柱をランダム配置させ、木々の重なりをイメージさせるようなデザインです。天井の一部に木を使っているところも、木々のコンセプトを彷彿させます。ランダムに配置されることで、たくさんの線が見えてきますが、1本1本を細くすることで、透明感もあります。ランダムに配置された手すり以外の線はできる限りシンプルに見せる配慮がなされることで上品な感じもあります。
ルーバー状手すり
手すりで必要な高さは、手がかりとなる床面から80センチから落下防止の110センチ程度となりますが、手すり支柱を途中で止めず床面から天井面まで格子状に立ち上げることで斜めのラインが1本省略され洗練されたデザインとなります。階段手すりのデザインはいろんな方向への線と、取り付け部分の複雑さがごちゃごちゃ感を増しています。それらの要素を一つでも省略できれば、シンプルに見えてきます。
まとめ
今回は、特に階段手すりに対して法令面、安全面の観点からのデザイン手法について紹介しましたが、その他にもバルコニーや玄関、廊下等、様々なところで手すりは設置されます。機能を確保しつつ、材質やデザインに工夫を凝らし、その空間に馴染む美しい手すり事例が少しずつ増えつつあると感じます。安全面や機能面だけを考慮した、無闇に手すりをつける工事も見受けられます。せっかく予算をかけてするものですので、もったいない。少しの手間と時間をかけ、その空間に美しく納まる手すりデザインを考えていきたいものです。
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one archi
現在の主な作業
一級建築士試験に一発合格し、組織設計事務所にて主に学校、公民館、道の駅、発電所等の幅広い用途の公共建築物の設計を行なっている。
自己紹介
芸術学部建築学科を卒業後、ハウスメーカーメーカーにて住宅の設計販売に携わる。一級建築士事務所開設を夢に、ハウスメーカーを退職し資格学校へ通うが、そこで現職場の先輩にスカウトされ組織設計事務所に所属する事になる。一級建築士の他に、インテリアプランナー、建築積算士、casbee評価員の有資格者である。2020年、実務経験と建築知識を活かして建築系のWEBライターとして始動。
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